DevRelとブランドの関係

DevRelとブランドの関係

こちらはDevRel/Asia 2020の発表内容を日本語化したものです。スライド画像は英語のままです。

ブランドとは何か

ブランドとは有形のものではありません。皆さんもブランドのイメージはあっても、的確な答えを持ち合わせていないかもしれません。そこで、まずはブランドとは何かを説明しましょう。ブランドの起源は、牛などの家畜に焼き印を押したことにあります。自分の家畜であることの証としてブランド化されていました。これがブランドです。現在では、ブランドという言葉は、有名な企業やサービス、商品のロゴマークを指すことが多いです。ブランドとは、ロゴを見ただけで製品やサービスのイメージを呼び起こすことができる力のことです。

つまり、簡単に言えば、ブランドとはマインドシェアの力といえます。ブランド力があれば、消費者はすぐにあなたを見つけてくれます。それは開発者の頭の中にある種みたいなものです。そして、ブランドは信頼の証でもあります。ブランド力のある製品やサービスは、開発者からの信頼度が高いと言えます。メリットを理解すれば、ブランド構築の重要性が理解できるでしょう。

こちらはインターブランドによるブランドランキングです。消費者向けですので、開発者向けとは違うことに注意してください。しかし、リストの上位5社をテクノロジ企業が独占しています。12位のインテル、13位のフェイスブック、14位のIBMもあります。テクノロジ企業がブランドを強化し、マインドシェアを獲得していることがわかります。

開発者という観点で見てみると、Appleのブランド力が非常に強いです。日本にはApple信者という言葉があります。Appleに魅了され、新製品が出るとすぐに飛びつく人たちです。私もその一人で、Appleの積極的に先進的な製品をリリースする姿勢が好きです。しかし、ほとんどの場合、最初の製品は多くの問題を抱えています。それもまた、Appleの価値の一部です。Amazon、というかAWSのことを考えてみてください。彼らはトップクラウドベンダーとしてシェアを45%を占めていて、さまざまな機能をリリースしています。開発者はそれらをパズルのように組み合わせてサービスを開発しています。個々の技術やサービスが開発者にとっては心地良く、AWSの魅力に取りつかれているのです。AWSの魅力の一つは、システムの安定性と機能の継続性です。めったに動かなくなることはありません。過去に書いたコードが継続的に動き続けます。開発者は、ベンダーの問題によってリリースされた機能を修正することなく、常に新しい開発に取り組むことができます。この安定性と継続性は、ブランド構築に大きな役割を果たします。

Microsoftはどうでうでしょう。約10年前、Microsoftは一部の開発者から嫌われていました。しかし、新しいCEOが就任した際に、メッセージは変わりました。Vistual Studio Codeは世界でもトップレベルのプログラミングエディタになり、Edgeは独自開発をやめてChromiumをベースにし、Edgeはブラウザのシェアを急速に伸ばしています。Googleは常に開発者志向の会社です。多くの開発者が彼らのサービスをハッキングし、便利なソフトウェアを作ってきました。Androidはスマートフォンの未来を変えようとしています。そして、Google ChromeやChromiumはWebを変えています。しかし、GoogleはGoogle VideoやPicassa、Hangoutsなど、似たような名前のサービスを作っては停止させています。彼らのサービスは継続性に難点があると知られています。継続性に疑問符がつくと、信頼を築くのは難しいでしょう。

このように強いブランドを持つことが、いかに企業価値を高めることにつながるかが分かったでしょう。ブランドの重要性が理解できたところで、次に進みます。

ブランドメリット

まずはメリットです。メリットを理解することで、ブランド構築の重要性が理解できます。ブランド構築のメリットは大きく分けて3つあります。

  1. 後天的なユーザーコストの低下
  2. LTVの増加
  3. 代替サービスとの差別化

まず、新規ユーザー獲得のためのコストです。マインドシェアを獲得していれば、開発者はほかと比較せずにあなたのサービスを選ぶでしょう。また、ロイヤルティの高い開発者は、あなたのサービスをほかの人に勧める可能性が高くなります。口コミでユーザーを獲得するためのコストは、広告よりも大幅に小さいです。

次に、LTVを向上につながります。あなたが強力なブランドを持っていれば、ユーザーは喜んであなたのサービスや製品を使い続けるでしょう。彼らはあなたのサービスに機能を追加してアップセルすることもあるでしょう。また、ほかのサービスへの切り替えコストが高くなるため、ユーザーはあなたのサービスを使い続けるでしょう。ほかのサービスへの流出は、単にマイナスではありません。競合他社にとってはプラス1、あなたにとってはマイナス1、合計2点の影響があります。

メリットの最後。ブランドはほかの代替サービスとの差別化になります。つまり、ブランドは選ぶ理由になります。価格や機能だけで選ばれるのではなく、ユーザーはブランドでサービスを選びます。たとえば、ブランドがなければ、あえてカッコ悪い商品を使いたいとは思わないでしょう。多少価格が高くても、使っていて格好良い、見た目がスマートな商品を選びます。また同じような商品が出てきても、ユーザーはあなたの商品を守ったり、応援してくれます。彼らはソーシャルメディアやブログを使って、クローン商品があなたのものとは違うことを説明してくれるでしょう。これは開発者にとって、あなたが一生懸命いうよりも説得力ある意見になるでしょう。

ブランド構築の目的

さて、ブランド構築の目的についてですが、これは簡単なことです。会社の利益の増加につながることです。

1つ目は、満足度の向上です。満足度が向上するということは、開発者がより多くのお金を払うことでしょう。価格を上げたとしても、離脱する開発者は少なくなります。2つ目は、開発者との関係が良くなることです。開発者がほかのサービスを気にするのをやめて、あなたのサービスを使い続けます。その結果、LTVは増加し、利益の増加につながります。最後に、ブランドはあなたのサービスの評判を向上させます。評判が良ければ、その評判に惹かれて新たな開発者を獲得できます。新規獲得のコストを削減することで、あなたの収益を向上させることができます。

ブランド価値を分解する

ブランド価値には2つの視点があります。開発者の視点と、企業の視点です。

まずは開発者の視点です。開発者目線のブランド価値観は、得られる利益とコストの差を基準にしています。認識できるものとは、わかりやすい価値のことです。たとえば、機能や価格などです。しかし、中には認識されにくい価値もあります。使っているとみんなが注目してくれるなど、エモーショナルな価値です。これは、数値化が難しいものです。一方で、目に見えないコストもあります。たとえば、学習コスト、コーディングの時間、さらにはあなたの製品を使用するために費やした彼らのキャリアなどです。

対して、企業のブランド価値はどうでしょう。企業がまず価値と考えるのは、製品提供価値です。製品提供価値の最大化はマーケティングの領域です。その製品価値が、コンテンツ提供価値やリレーションシップ提供価値と相まって、ブランド価値を生み出しているのです。DevRelに携わっている方なら、ここでピンとくるはずです。

そう、コンテンツとリレーションシップです。ブログ記事を書いたりドキュメントをメンテナンスしたりするのがコンテンツ、コミュニティを維持したりハッカソンを扱うのがリレーションシップと同じです。つまり、ブランド構築の2大要素をDevRelが担っているのです。私たちDevRelがやっていることは、ブランド構築を強化していると言ってもよいでしょう。もともと私はブランド構築に興味があり、いろいろと調べていました。コンテンツ提供価値とリレーションシップ提供価値を知ったときに、大きな衝撃を受けました。なぜなら、DevRelがこのコンテンツ提供価値とリレーションシップ提供価値を提供しているからです。

コンテンツ提供価値とリレーション提供価値

もう少し詳しく説明しましょう。コンテンツ提供価値とは何かというと、製品の価値を上げる情報のことです。誰かに伝えたくなるようなストーリーであったり、相手を虜にするようなストーリーなどです。ほかとは何か違うと感じさせるストーリーもよいです。OSSの場合は、開発者が助けたくなるようなストーリーもよいです。

同様に、リレーション提供価値とは、製品の価値を高める関係性のことです。サービスを利用してソフトウェアを開発する経験、ユーザーグループに参加してコミュニケーションをとる、公式・非公式のサポートを受ける、OSSの開発に貢献するなど、すべてが関係性につながります。

コンテンツ提供価値とリレーションシップ提供価値、この2つが一緒になって初めて意味を持ちます。しかし、多くの場合、最初の接触はコンテンツです。そして開発者があなたの製品を継続的に使用することで、開発者は関係性を感じ、あなたの製品をより深く好きになるのです。では、たとえばコンテンツ提供価値とリレーションシップ提供価値とは具体的に何なのでしょうか。コンテンツ提供価値とは、企業が提供する情報で、あなたの製品をより魅力的なものにしてくれるものです。コンセプトムービー、一貫したデザイン、ブログ記事、ドキュメントだったりします。リレーションシップ提供価値はソーシャルメディアやユーザーグループ、ハンズオン活動などの体験主導型の施策になります。これらの要素はどちらもあなたの製品提供価値を支え、ブランド力を向上させるものです。

注意ポイント

B2BとB2Cでは、誰をターゲットにしているかによって製品やサービスの条件が異なることを理解しましょう。B2Cでは、個人の開発者がターゲットであり、ステークホルダーは少なくなります。その反面、安定性は低くなります。B2Bの場合、戦える市場が限られきます。どちらの場合でもターゲットオーディエンスを分析し、彼らに合わせたブランディングをしましょう。ターゲットが違えば、コミュニティも異なるでしょう。ターゲットオーディエンス、つまり開発者のことをしっかりと学びましょう。

次に、信頼はすぐに築かれるものではありません。システムの安定性、応答性の高さ、そしてサービスの継続性が関係しています。中長期的に時間をかけることが、確かな信頼を築くためには欠かせません。

いつはじめるか

では、ブランディングの構築はいつから始めるのがベストなのでしょうか。これは新商品と既存商品では異なります。まず、新規製品の場合は、サービスのコンセプトが固まってから行うのがベストです。それ以前にやってしまうと、ピボットの影響が大きくなります。すでにリリースしている製品の場合は、アーリーアダプタへの波及が落ち着いたタイミングにしましょう。アーリーアダプタのフィードバックを受けてサービスが改善された段階くらいがちょうどよいです。

注意点

ブランドというのは信頼の積み重ねです。信頼は砂粒のようなもので、それを山のように積み上げるのは非常に難しいです。たとえば、あなたの会社がいくつかのサービスを提供しているとしましょう。最初、それぞれのサービスと開発者は良い関係を築いています。しかし、あなたのサービスの1つがユーザーの信頼を損なったとします。そうすると、会社への信頼は損なわれ、ほかのサービスにも波及することになります。1つのサービスの失敗は、会社全体のブランディングに悪影響を及ぼすことになります。

逆に言えば、すべてのサービスで良好な関係が保たれていれば、会社全体で開発者との強い信頼関係を築くことができます。

まとめ

ブランドとは、開発者とサービスの絆です。強いブランドがあれば、開発者の心に早く届くでしょう。またブランドとは、それぞれの製品、コンテンツ、関係性の提供価値の掛け算で表されます。最後に、信頼を築くのは難しいですが、壊すのは簡単だということを忘れないでください。


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