DevRelは開発者向けのマーケティング活動になります。マーケティングということは、自社製品に関する情報を正しいターゲットに正しく届ける必要があります(製品自体を届けるのはセールス)。そのために戦略を立てて、適切にマーケティングを行います。
戦略と戦術がよく混同されるのですが、戦略は大局的なシナリオと言えます。戦術は戦略を達成するために必要な、現実的な施策になります。まず正しい戦略を描くことで、細かな施策も立てやすくなります。
ライバル企業の存在しない市場はほぼ存在しません。今でこそ“クラウド”という単語も知られるようになり、たくさんのIaaSベンダーが存在しますが、最初にクラウドをはじめたAWSにはライバルは存在しなかったでしょうか。彼らの最初のライバルは従来のホスティングサービス(共有/VPS/占有など)であり、そのシェアを争う立場にありました。AWSは最初は後発であり、すでに巨大なプレイヤーが多数存在する中からはじまったと言えます。
何か新しいコンセプトを考えたとしても、すでに類似プレイヤーが存在するのが常です。そうした既存プレイヤーとの立場の違いを認識しなければなりません。
すでに業界における第一シェアがあり、二番手以下のライバル企業が存在する状態です。クラウド業界であればAWSであり、検索市場であればGoogleなどになるでしょう。多くの場合、ネットサービスでは先行者利益が大きく、第一位の企業が約4割のシェアを獲得します。
この場合、現状の立場を維持するのは当たり前として、さらに他社突き放すような施策を打ち出し続ける必要があります。停滞によって他社に追いつかれるようなリスク、新しい技術が提示できなくなった時に落ち目と思われるリスクは常に存在します。
第二位、第三位になるプレイヤーがチャレンジャーです。クラウド事業で言えばMicrosoftであったり、IBMが該当します。彼らは第一位のシェアには劣りますが、セグメントが分かれていたり、対象になるユーザを分けることで生き残ることができます。
もちろん常に二位、三位に甘んじている訳ではなく、虎視眈々と一位の座を狙ってはいるでしょう。ただし多くの場合、一位のサービスを模したものになりがちで、差別化が難しいという面もあります。
大手の企業にそのまま対抗しても難しい中、独自路線を進むサービスも一定数存在します。クラウド事業で言えばHerokuなどが該当します。他にも極端な低価格戦略であったり、コンテナ技術が登場した際にコンテナのホスティングサービスを提供するものも数多く登場しました。
ニッチプレイヤーは大手とは一線を画したサービス、存在になります。大手ほど大きな資本は必要とせず、サービスを拡大させることができます。
突如として現れて、大きな資金力を背景に一気にサービスを伸ばしてくるのがシューティングスターです。今、クラウド事業者の間でシューティングスターと言えるのはAlibaba Cloudになるでしょう。彼らは元々中国国内という特定地域にフォーカスしていましたが、現在はグローバルにサービス展開しています。そのサービス内容はAWSを強く意識したものですが、豊富な開発リソースを投じており、数百の機能がすでに提供されています。
こういったプレイヤーとしての立場を正しく認識するのが戦略の第一歩になるでしょう。
立ち上げたばかりのサービスで収益化を一気に狙うのは無謀でしょう。まず認知度の拡大、利用者獲得を第一と考えるはずです。中長期的なサービス継続、拡大を考える上で収益化は大事な要素ですが、早期に狙いすぎるものでもありません。
自社の現状を把握した上で、今何に力を入れるべきかを正しく判断しましょう。この時にはAARRR分析が役立つはずです。
さらに前後に認知(Awereness)、最後に製品(Product)を加えたAAARRRPモデルはDevRelで良く語られる文脈です。この中でどこに力を入れるか(戦略)を考えないといけません。
戦略を考える上で行いたいのが自社分析です。他社との比較をするのはそれほど難しいものではありません。大事なのは自社製品と、自社リソースです。常に他社と比較するようなサービス提供を行っていると新規性がなくなり、新しいメッセージを打ち出すこともできなくなるでしょう。チャレンジするためにも自社でできることを正しく見極めなければなりません。
このときに使えるのがVRIO分析になります。
特許などが絡んだリソースは貴重です。逆に買うことのできる技術や製品をベースに据えているのは問題です。たとえばAIに精通した人材は貴重であり、他社が容易には獲得できない存在ですが、ヘッドハンティングで引き抜かれれば自社のリスクにもなり得ます。VRIO分析ではリスク面の評価も適切に行いましょう。
自社製品がどれだけ優れていたとしても、買ってくれるユーザがいなければビジネスにはなりません。製品を単なる自己満足で終わらせないためにも、市場分析が必須です。市場分析はライバル企業だけでなく、日本や海外も含めた環境全体がターゲットになります。この時、データとしては政府や自治体が出しているオープンデータやマーケットリサーチ会社の出すレポートが便利です。
分析としてはTOWS分析がよく使われます。いわゆるSWOT(強み、弱み、機会、脅威)分析を掛け合わせて分析するものです。
自社の強みと環境機会を掛け合わせる(A)、逆に外部からの脅威に対抗する(B)、弱みを表に出さないための工夫(C)、弱みにつけ込まれないようにする工夫(D)などが見えてきます。戦略としては機会×強み、もしくは機会×弱みを伸ばしていくのが一般的でしょう。
すでにサービスを提供しており、さらに伸ばしていく、または次のステップを考えていく際には、まず既存サービスの分析が必要になるでしょう。そこで使えるのはプロダクトポートフォリオです。
これは既存製品や機能を花形、金のなる木、問題児、負け犬の4つに分類します。もちろん投資していくべき分野は花形になるでしょう。マーケットシェアが高く、市場成長性が高いので、追加投資した分だけ収益向上が見込まれます。逆に金のなる木は高い市場成長性は望めないのでメンテナンスモードであったり、シェアを維持すれば十分と言えるでしょう。負け犬については撤退や売却を考えるべき分野です。
問題児については判断が分かれます。マーケットシェアは低いものの、市場成長性は高いと想定されます。この領域にフォーカスすることで、花形にできる可能性もあります。もちろん何もしなければ次第に市場成長性が低くなって、負け犬になっていくのは間違いありません。
戦略は細かい施策ではなく、大きく今後(または今期)どういった施策を行っていくべきかの指標です。分かりやすく、誰でも理解できる明確さが必要です。そして個別の施策(戦術)を考える際に、それが必要であるかどうかを判別できる指標になっていなければなりません。
ユーザ増加、収益向上などというのは当たり前なことで、どんなサービスでも目指すべきものではないでしょうか。そのため戦略としてはあまり意味がありません。集中すべき市場の特定、ビジネス展開の方向性、AAARRRPにおける資源投入層の決定などが必要になるでしょう。
つまり選択と集中です。すべてのレイヤー、すべてのターゲット、すべての技術にベッドできれば問題ないでしょうが、企業におけるリソースは限られたものです。その限られたリソースで最大限の効果を出さなければなりません。場合によっては注力すべき技術領域を間違えてしまう場合もあるでしょう。しかし、だからといって全方位的に中途半端に注力するのは愚策になります。
戦略の結果はすぐに分かるものではないでしょう。少なくとも一年、長ければ五年後かも知れません。すぐにぶれるような戦略を立てると現場が混乱するのは間違いありません。ある程度中長期的に観測できる内容になっているものがいいでしょう。
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