先日、某大学の学生からインタビューを受けました。内容は彼らが研究している共創マーケティングについてです。4〜5年前、DevRelについて調べた時にキーワードの一つとしてあがったのが共創マーケティングになります。共創マーケティングは外部の人たちと協力して、より良い製品を開発したり、マーケティング(広報)するマーケティング施策になります。
事例として当時よくあがっていたのが無印良品のくらしの良品研究所です。ここで作られた有名な製品としては、人を駄目にするクッションが知られています。正式な製品名は体にフィットするソファといいますが、あれは本当に素晴らしい製品です。海外ではYogiboという類似品がありますが、圧倒的に品質が良いです。数年経った時のへたり度が全く違います。実際、自宅にも大小3つほど体にフィットするソファがあったりします。体にフィットするソファは無印良品の顧客と一緒に企画、開発した製品になります。
もう一つ当時の事例としてあがっていたのがゼクシィです。結婚式の情報などを掲載するゼクシィですが、読者を招いて誌面の企画や改善を考える会議を行っているそうです。特に面白いのがゼクシィの読者の中でも、結婚した人たちを招いていることです。恐らく人生の幸福度において絶頂にあると思われる人たちを招くことで、誌面もまたハッピーなものに仕上がることでしょう。成功体験を誌面に活かすのは良い考えです。
そうやって、自分たちの製品やサービスの利用者(ファン)と共に製品を開発したり、改善するのが共創マーケティングと呼ばれています。
ではこれをDevRelの視点から考えるとどうなるでしょうか。まず思いつくのはフィードバックループです。IT系のサービス、特にWebサービスの場合、一般消費者向けの製品や雑誌などに比べて改善と反映が容易に行えます。そのため、実際に使ってくれている開発者の声を吸い上げてUI/UXを改善したり、機能開発に活かすといったことは良く行われています。
次にAPIの利用です。AWSやGCPに代表されるクラウドサービスなどプラットフォームサービスは開発者に何かを作ってもらわなければなりません。そのため、彼らの創造性を刺激したり、彼らが何かを作る際にそれを補助する仕組みを作ります。プラットフォームはそれ自体がサービスではありますが、その上で動くアプリケーションやサービスがなければなりません。それもまた、共創マーケティングの視点が必要だと考えています。
現在のWebサービス、アプリケーションの世界ではプラットフォームが重視されています。iPhoneやAndroidにおいて、その魅力を引き出しているのはAppleやGoogleではなく、その上で動作するアプリです。YouTube、LINE、Netflix、Facebook、Twitterなどのアプリがあるからこそスマートフォンを利用しています。さらにそれぞれのサービスもプラットフォーム化し、開発者がアプリを作ったり、API連携できる仕組みを作っています。まさにプラットフォームがプラットフォームを生む時代と言えるでしょう。そして、プラットフォームを魅力的にするのはプラットフォーム自身はもちろんですが、その上で動くアプリケーションによるのです。そのアプリケーションを作るのは開発者であり、彼らとの関係性の強化こそがDevRelな訳です。
共創マーケティングは主にBtoCの文脈において語られることが多いですが、BtoBにおいても決してない訳ではありません。ただし、BtoBの場合は業務提携であったり、子会社設立のように、収益をどうするかといった視点で考えることが多くなってしまいます。BtoBにおける共創マーケティングはフィードバックを受け取って、それを開発に活かすといった形が多いかと思います。
共創マーケティングを成功させる要因として大事なのは、顧客ファーストな視点です。顧客が本当に欲しかったもの、というのはプロジェクト管理における戒めとして知られていますが、どのような企業やサービスであっても起こりえるものです。自分たちのリソースや得意分野を押しつけてしまったり、ほんの少し収益を重視したために機能が使いづらくなるのは良くあることです。一つ一つは小さなことでも、蓄積されたズレが利用者離れに繋がるのです。
ただし、利用者にこびるようなやり方はまた、失敗の元になります。一般消費者は移ろいやすく、自分勝手な意見を言います。「こういう機能があれば買うのにな」と言いつつ機能を付けても買わないなんてことはざらです。すぐに「高い」と文句を言い、安くしても買うことはありません。安くした分、厄介な顧客が増えるなんて場合もあります。消費者の意見は受け入れつつも、自分たちとしての軸をきちんと持っておく必要があります。筆者はそれがブランドであると考えます。しっかりとした揺るぎないブランドを作ることが、結果として利用者との信頼性を構築することになるでしょう。
例えば無印良品にカラフルな色のシャツを作って欲しいというニーズは良くあるそうです。それに対して、無印良品は素材の風合いを大事にした製品作りをコンセプトとしているため、叶えることはできません。もしそれをやってしまえば、ユニクロやGUといった他のアパレルと変わらない存在になってしまうことでしょう。一時的には売上があがるかも知れませんが、中長期的にはブランドの毀損、そして低迷に繋がってしまうはずです。共創マーケティングにおける罠とも言えます。
WebサービスやSaaSはユーザのアクセス解析もしやすく、開発者とのコミュニケーションも他の製品に比べると容易な存在と言えます。それだけに開発者の意見を製品開発に活かすのは大事な考え方と言えるでしょう。共創マーケティングの視点はDevRelにおいて重視すべきだと言えます。
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